令和3年 3月 21日(日)に開催しました第46回 石川県医学検査学会で特別講演をしていただいた多賀 千之 先生(多賀クリニック(白山市))から参加者の質問に対する回答をいただきましたので、以下に掲載致します。

(多賀先生)
お送りいただきました質問に対して、私なりの回答を準備しました。これは「回答」であって、「解答」ではありません。つまり、絶対的な正解ではなく、私なりに「こう考えたら良いかなあ」「こうしたら上手くいくかもしれないなあ」というぐらいのものです。少しでも参考になり、少しでも次の展開に進むことができれば幸いです。また、この解答に対しての感想をお聞かせ頂けたら嬉しいです。

Q1
自閉スペクトラム傾向にある要員は集中力が散漫で失敗することが多いと思われるのですが、注意することで落ち込むかと思うと、指導が難しいです。有効なコミュニケーションを教えて下さい。
A1
大人に対しても、子供に対しても、自閉症スペクトラム含めたハンディキャップの人に対しても、コミュニケーションの基本は同じです。むしろ、子供やハンデキャップの人に対しては、より一層強く意識する必要があるでしょう。自閉症スペクトラムの方の特性は、一般人における“癖(くせ)”とは比較にならない根本的な特性ですから、それを教育・指導・強制によって変える、すなわち自閉症スペクトラムの方に普通の設定で仕事をしてもらうことは無理と考えた方が良いでしょう。仕事の量や質や環境や接し方を、自閉症スペクトラムの方にこちらが合わせてあげることが原則です。自閉症スペクトラムの方は真面目で一概な性格の方が多いので、仕事の量や質や環境や接し方を合わせてあげると、一生懸命仕事をしてくれることが多いです。それを同僚から“えこひいき”と捉えられる時もありますが、“その人を活かす”、“適材適所”と考えたら良いでしょう。

Q2
旅行を近年のモチベーションにして仕事を続けてきましたが、コロナ禍でそれも叶わず医療従事者であるというストレスが大変強くいつもイライラして仕事にも多少の影響が出ています。何かアドバイスがあればよろしくお願いします。
A2
私は数年前から四国のお遍路(1,400キロ)を、ゴールデンウィークに少しずつ歩いています。お遍路では、それぞれのお寺(札所)で般若心経を2回詠みます。その般若心経の一説に、『心無罣礙(しんむけげ)無罣礙故(むけげこ)無有恐怖(むうくふ)』という文言があります。これは「心にこだわりがないこと(が大切である)、こだわりがなくなることにより、あったはずの恐怖(心)がなくなる」という意味です。「旅行を近年のモチベーションにして仕事を続けて来ましたが、コロナ禍でそれも叶わず医療従事者であるというストレスが大変強くいつもイライラして」というのは、旅行に行けないからストレスが溜まる、すなわち旅行にこだわっているのではないでしょうか。この時期だからこそ、家で非常にマニアックな旅行の予定を立ててみる、コロナ禍が収束したらそれを実行してみるのも方法だと思います。また、旅行だけが自分の楽しみという状況から脱皮するための機会として、図書館へ行って色々な本を見て別の趣味を見つけることの良いきっかけにもなるのではないでしょうか。リラックス案が一つしか持っていないと、これから将来、体力的に経済的に旅行が難しくなった時に、行き詰る可能性があるからです。

Q3
相手の目を見て話すのが苦手ですが、善処できることはありますか?
A3
苦手なことを克服する努力より、得意なことを伸ばすほうが効果的だと思います。日本の教育は不足している・ダメな部分を引き上げる方式を基本にしてますので、どうしても苦手なところを克服する努力が当然と思いがちです。一方、アメリカの教育は得意なところを伸ばす方式で、苦手なところは他の人に頼めば良いとしています。話を聞くことにおいて、傾聴の方法にはいくつもの方法があります。目を合わせた方が「聞いてもらっている」という感覚を伝えやすいのは確かですが、自分のできる方法を一生懸命する、自分の得意な方法を組み合わせることで、今の聞き方よりずっと傾聴レベルは上がると思います。傾聴の方法を一つずつ順番に、1週間ずつ、意識して試してみましょう。きっと、目を合わせる以外の、自分に合った傾聴の方法が見つかると思います。

Q4
うつ病の同僚が復職する時、どのような声掛けから始めたらよろしいでしょうか?
A4
「戻ってきてくれて、ありがとう。」と「あせらず、ゆっくりと仕事のスピードに馴染んでね」の二つの言葉が良いでしょう。周囲がどのように接したら良いか分からないという点に関しては、できるだけ淡々とした生活(仕事)をすることと、励ましや気晴らしに誘うなどの元気づけをしないことでしょう。仕事をどれくらいさせたら良いか分からないという点に関しては、「できる限りゆっくり」と仕事量・質を増やしていくことが重要です。本人は長期療養からの復帰であることから、「大丈夫です、大丈夫です、がんばります、ガンバレます」と言いますが、実際のところは心の電池がフル充電になった状態で仕事に復帰していることはありませんので、すぐに電池不足になりやすいです。以前に私が取ったやり方は、まず1カ月間は午前中の3時間の勤務だけ、次の1カ月間は午後3時までの勤務、さらに次の1カ月間は午後5時までの勤務で午後5時以降の業務は全くなし。そこまで良い状態を続けることができれば、以降は時間外勤務もすべてオーケーにする。その間も精神状態は波打ちますから、誰かが2〜3日おきに精神状態を聞いてあげる必要があります。

Q5
過労ぎみであり、また頑張りを評価されないもどかしさがあります。仕事をひとりでかかえこまないための良い方法がありましたら教えてください。
A5
評価には他者評価と自己評価があります。組織においては上下の相性により、他者評価で貢献度が十分に評価されないことはよくあります。そのギャップを解消する良い方法はありません。しかし、自己評価で自分の気持ちを持ち上げることは可能です。自分自身が自分に向かって、「良くやってるじゃない」とか「頑張ってるね、ご苦労さん」とか小声で激励します。他者に何ら遠慮する必要はありません、自己評価は自己満足のためですから。これも実は非常に大切な“セルフコントロール”の方法で、平木典子さんの『いまの自分をほめてみよう:元気が出てくる心の法則』の中で、「ほめることとほめられることによる相乗効果で、人と人のコミュニケーションがどんどん良い方向へ発展して行く。 そのための第一歩は自分をほめること。きちんと自分を見つめていないと自分をほめられません。 相手をほめる時も同様で、相手をきちんと見つめていないと相手をほめることができません。 ほめ上手な人は友人知人を沢山持てます」と書いています。つまり、同僚をほめていると自分もほめられる可能性が高くなりますし、そのような関係の同僚は仕事を手伝ってくれる可能性も高くなります。そして、そのような良好な関係の同僚に対してなら、「お願い、手伝って」と素直に頼めるでしょう。そうすれば、仕事を一人で抱え込まなくて済みます。

Q6
今のご時世、すぐにパワーハラスメントなどと言われてしまうことがあるかと思います。パワハラと言われない為にはどのような点に気を付けるべきでしょうか。
A6
ハラスメントの非常に難しい点は、そうであるか否かの判断が相手の主観であるということです。例えば、嫌いな人から肩を触られれば「いやらしい触り方をした」と訴える可能性がありますが、好きな人に肩を触られても文句は言いません。仕事で厳しい指導をしても、「自分のために強く行ってくれているんだ」と取る部下もいれば、「言い過ぎだ」と怒る部下もいます。その違いを生み出すのは、お互いの信頼関係です。信頼関係ができあがっていな時の行為は、ハラスメントになる可能性があるということです。人間関係・信頼関係の基本は、話を聞くことです。現代社会では仕事や社会変化のスピードがどんどん早くなり、時間をかけて話を聞く・人を育てるという「手間暇かけて」・「手塩に掛けて」が乏しくなってきました。その典型が「即戦力」の採用です。全てを昔に戻すことはできませんから、その落とし穴をカバーする努力をすることが大切でしょう。そのカバーする方法が、昔からある「話を聞く」という方法です。

Q7
子供のやる気スイッチを見つけられず、大学受験がおわりました。本人から、ありませんよと言われショックもありましたが、本人が自ら考え、試験に合格したことは、嬉しいことでした。今後、大学生となっての声掛けの仕方に何か助言があれば教えて下さい。
A7
「声掛けの仕方に何か助言はありませんか」という質問は、“声掛け”や“助言”というアドバイスをする、親が子に訓示するイメージがまだまだ気持ちに残っていることを示しています。言葉は無意識で書いて・話していますから、潜在意識が現れます。大学生は自分で考える練習をするのが大切ですから、本人が考える・考えをまとめる意味でも、親が話を聞いてあげることが最も大切でしょう。人に話をしているうちに、自分で考えがまとまってきたり、答えが見つかったりする経験は誰しもあるものです。親が話をしてあげることとしたら、親の経験と夢を語ることでしょう。なぜなら、思春期は経験が少ないから迷う・困るのですし、夢を見つけることができれば頑張って羽ばたきますから。親の経験を話す時のコツは、時間は少しかかりますが、生の経験を話すこと。経験を要約して「こんな時はこうすべき」と話すと、方法論を押し付けられた感じになり、思春期はとても嫌がります。したがって、生の経験をダラダラ話して、その中から子供が「自分にとって参考になる部分はここだな」という様に、自分で参考になる部分を自主的に取って行かせれば良いのです。「子供が大学生にもなったから、お母さん(お父さん)も自分の夢を追いかけるわ」と、子供の方から視線を外してあげた方が、子供は自由に考え行動する様になります。したがって、子供が大学生になった時をきっかけに、親が自分の夢を語り、自分の夢を追いかけることも、良いギアチェンジですし、人生が楽しみになります。

Q8
身内に「ありがとう」は言いづらく、これまですごして来ていますが、ありがとうを言うきっかけなどアドバイスありましたら、申し訳ありませんがご教授ください。
A8
「ありがとう宣言」をしましょう。「ありがとうの7原則」でお話しました様に、「ありがとうは後出しでも効果あり」ですから、この1〜2週間のこと、何だったら1年以上前のことでもオーケーですから、家族に感謝している小さいことを思い出します。それに関するありがとうを「いつ・誰に」言うかを決めます。できることなら、その決めたことをセミナーや周りの人に宣言しておく、ことが便利です。宣言した相手から「ありがとうを宣言通り言えましたか?」と尋ねられる可能性がありますから、やるしかなくなります。自分を追い込みすぎることはよくありませんが、誰しも、少しは追い込まないとやりません。人に言わずに紙に書くだけでも良いでしょう。少し思い切ってありがとうが家族に言えれば、「ありがとうのハードルは一旦下げると上がらない」ことはすぐにわかります。「こんな気持ち良いことなのに、どうして言わないと決めていたんだろうと思います」と多くの方が言われます。この少しの思い切りで、人生は大きく変わります。

Q9
2歳の孫(男児)がいます。以前、中々言うことを聞いてくれない孫に、嫁が一生懸命に話しかけ(説得)、しまいには「どうして言うことを聞いてくれないの」と涙をながしていました。こんな時、どうしたらよいでしょうか。
A9
2歳のイヤイヤ期の子供に向かって、説得を試みる努力は敬服しますが、諦めた方がお互いのエネルギーを無駄にしなくて良いでしょう。。私の尊敬する児童心理学者の佐々木正美さんはその著書『子どもへのまなざし』の中で、「しつけというのは、こちらの希望を子どもに伝える続けることです、そのことができる様になる時期は子ども本人が決めますから、親はその時期まで期待して待つだけです」と書いています。自分たちが親から何回言われてもダメで、時間経過が必要だったように、涙を流すほど強く繰り返しを行ってもほぼ無意味です。同じ時に2回以上行っても効果は増強しません。イヤイヤ期への対応方法はありませんが、必ず時期が過ぎれば、聞き分けよくなります。

Q10
自分の思いを言うことのまだ出来ない1.2歳児にはどのように接すればよいでしょうか。
A10
「自分だったらこうしてほしいだろうなあ」という推測で、まず動いてみれば良いでしょう。親はその子供の傾向をずっと見ていますから、当たっている可能性が高いでしょう。もし、それが違っていれば、子供はぐずりますから、「あー、こうじゃなかったんだ」と分かります。それを繰り返していけば良いのです。

Q11
子育てについて。姉妹の口喧嘩が絶えません。『〇〇言われたら、どう思う?いやじゃない?だったら言わない方がいいよ』と親として言うんですが、その時は分かっても、時間が経てばまた口喧嘩です。親としてどう対応すればよいですか。
A11
兄弟(姉妹)ケンカは放っておきましょう。放っておいても、大丈夫です。世界中に何十億の兄弟姉妹がいて、何兆回の兄弟姉妹喧嘩をしていますが、大きくなって「喧嘩もよくしたよねー」と言っているだけで、恨んでいることはまずありません。詳細は、多賀クリニックホームページから「多賀先生の子育て応援サイト」→「子育ての知恵袋」と進み、「No.79 兄弟(姉妹)ケンカはレクリエーション」・「No.80 ケンカを止めるタイミング」・「No.81 ケンカ両成敗」をお読みください。http://taga-clinic.jp/kozinzyouhoutoriatukai042.html

Q12
多賀先生には日頃から娘達が大変お世話になっています。コロナの影響で仕事中心の日々になり、特に上の子と1対1になれていないと反省しています。先生のお話にもあった通り、上の子はかなり我慢しているのを感じています。精神的な余裕が無い時にはどうやって子供に接すれば良いのでしょうか?
A12
無理をしなくても大丈夫です。余裕がないのに無理して子供に接しても、本当の意味での笑顔で接していませんので、子供の方が感じ取って、本来の甘える壺を満たすことはできません。お母さんの笑顔が、子供たちにとって最も大切な栄養です。とはいえ、お母さんの余裕が生まれるまで待っていたら、子供が大きくなって思春期に入ってしまい、甘えるという時期でなくなってしまう場合もありえます。そこで今でもできる工夫をお話ししましょう。工夫というのは努力ではありません。努力は漢字をみても分かるように「力」が二つかかりますから、疲れてしまい、続けていくことができません。何せ、子育てはエンドレスです。工夫なら、力まなくてもできるので、続けることがでます。工夫の一つは、やはり、1対1お風呂です。子供に十分に向き合ってあげていないと感じるのは、「この時間にあの仕事をしてしまえたらいいのになあ」と脇見しながら子供に接しているために、お互いに満足感が低くなってしまうのです。お母さんにとってもお風呂は入ってしまえば、他の仕事に脇目を振ることは考えられませんし、自然と子供とまっすぐゆっくり目を合わせることができます。2〜3週間に1回の1対1お風呂で、子供たちの甘える壺は十分に満たしたままにすることができます。もう一つの工夫は、お母さん自身に余裕を作ることです。余裕を作るには、時間的余裕と精神的余裕があります。時間的余裕というのは、お母さんの仕事の代行者を探して、お願いすることです。お父さんでも、おばあちゃん・おじいちゃんでも、お金はかかりますが、食材買い物の代行としての「ヨシケイ」の利用や、掃除・洗濯などの家事代行サービスを一時的に利用するのも一つの選択肢でしょう。また、精神的余裕も大切です。お母さんは家族の誰もが当然と思っていてねぎらってくれませんから、自分自身へのねぎらいを込めて、自分の好きな「マイカップ」を買って、好きな紅茶やコーヒーをゆっくり飲みます。好きな自分のカップで好きなものを飲みながらとる休憩は、たとえ5分であっても満足感が数倍違います。詳細は、私の講演会DVDの貸し出しをいろいろな場所でしていますので、その中で「お母さんの人生を豊かにするマイカップ運動」をご覧ください。
 http://taga-clinic.jp/seminarrallycard.html

Q13
うつ病になってから(病気のせいにしているだけかもしれませんが)何においても意欲が無くなり自身情けなく思っています。毎週のように人生にピリオドを打ちたい、仕事を辞めたいと思っていますが、一家の主としてその選択もできず毎日がたいそいです。仕事のキャパも以前に比べ格段に落ちたように感じます。こんな自分になにかアドバイスがございましたらご教示ください。
A13
「何においても意欲が無くなり」「毎週のように人生にピリオドを打ちたい」「仕事を辞めたいと思っています」「仕事のキャパも以前に比べ格段に落ちたように感じます」という言葉から推測しますと、うつ病の治療が必要な状態と考えます。うつ病は決して「病気のせいにしているだけ」ではありません。それらの気持ちが病気であって、治療すれば、すべて軽減し、消失します。しっかりと治療を受けて、時間をかけて治すことが大切です。治療を受けて、時間をかければ、必ず治ります。「一家の主」だからこそ、しっかり治して、また、しっかり家族のために働いて頂きたいです。

Q14
子供を叱った時に子供も怒って何度も私を叩いて反抗してくると、こちらもイラッとなって叩いてしまうことがありますが、子供の叱り方、注意の仕方はどのようにしたらいいのでしょうか?
A14
「子供を叱った時に子供も怒って何度も私を叩いて反抗してくると、こちらもイラッとなって叩いてしまう」というようなことを、“大人気ない”、すなわち“大人のするような行動ではない”と言います。「おー、やってるやってる」というくらいで流しましょう。何回も同じことを繰り返し言わないことでしょう。1時間以内に同じことを2回以上言わないように心がけましょう。繰り返し同じことを注意すると、言う側の言葉がだんだんと強い口調で大きい声になります。強い口調で大きい声で子供を叱っても、指導効果は下がることはあっても、上がることはありません。それなのに、それが分かっていて、同じやり方をしているのは「学習能力がない」と言われても仕方ありません。声を荒立てずに2回言ってダメなら、諦めましょう。

Q15
貴重なご講演ありがとうございました。
5歳と1歳の子供がいる母親です。自分自身が忙しく余裕がない時に子供に話しかけられると、「ダメ」「今は無理」などと拒絶してしまうことがあります。やる気の芽を潰してしまったと後から後悔反省することが多々あります。そんな時、後からフォローできるようなことや声のかけ方などはありますか?
A15
あるお母さんが言っていました、「母親は昼も仕事、夜も仕事ですよ」と。その通りだと思いました。お父さんは家に帰ったら、休んでいます。忙しくて余裕がないときに「ダメ」「今は無理」と言ってしまうのは、当然であり、仕方ありません。後から後悔反省する気持ちがあれば、それだけでも十分です。後からできるフォローとしては、たまにで良いので「よーし、今ならできるよ」とお母さんの方から誘ってあげましょう。また、1対1お風呂に誘えば、文字通り、子供の方から“水に流して”くれます。1対1お風呂ほど、時間の割に満足感の高い方法はありません。子供たちは「ねーねーお母さん」「もっともっと」と言いますが、お母さんが自分たちのために忙しいということは分かっています、感じています。声のかけ方としての工夫は、語気荒く「ダメ」「今は無理」と短く言い切るより、「◯◯しているから今はダメだよー」とか、「今は無理だから、後で時間できたらしようねー」と流す言い方を使ってみましょう。後でできなくても、時間がなかっただけですから、嘘つきではありません。語気荒くすると、自分自身もさらに焦って、イライラしてきます。救急外来で処置をする際に、私は意識的に語気を荒くせず、落ち着いた小さめの声で指示を出すように工夫しています。すると、スタッフが聞き耳を立てて、静かに動いてくれますし、自分自身の心拍数が上がりません。それでも、思わず語気強く「ダメ」「今は無理」と言ってしまい、「あーしまった」と思ったら、自分で「お利口さんにしててくれたら、後でダメ(無理)じゃなくなるかもしれないよー」と自己フォローの言葉で帳消しにしましょう。言わない努力をするより、行ってしまったらじこフォローする方法を使う方が数段楽です。

Q16
子供(中学生)のスマホを勝手に見るのは良くないことですか?
時々見るよ、と子供には言ってあります。先日久しぶりに見て、子供が仲間外れになっていることを知りました。そのことについて聞くと、詳しく教えてくれました。中学生になっても高校生になっても、なんでも話してほしいのですが、どう伝えるのが一番ですか?
A16
中学生の子供にスマホを買い与える時に、「時々見るよ、と子供には言っておく」という取り決めをしていることに感銘しました。こんな方法があるんだと目から鱗が落ちた気分でした。プライバシーに関して、スマホを見てしまってから「親として子供の管理をするのは当然でしょ」と後出しジャンケンするのはダメですが、先に言ってあったんだから今回見たのはオーケーだと思います。加えて、見られたことに大かれ少なかれ納得したからこそ、それ以後の「詳しく教えてくれた」につながったのでしょう。 親には子供を守り育てる義務がある以上、子供のプライバシーを最優先・絶対視する必要はないと私は考えます。子供のプライバシー保護は親の努力義務であって、子供の権利ではないと思います。今回のように、「仲間はずれ」の問題に対する話し合いができて、スマホを見たこと自体を揉めることがないように将来もしたいのであれば、親から子供に「どう伝える(話すか)」という方法を探すのではなく、話を聞いてあげる、傾聴を心掛けることが大切です。仕事の上でも、上司は「何でもっと早く言って来なかったんだ」と部下を叱りますが、部下からすれば「だって言える雰囲気じゃなかったじゃないですか」と内心思っています。人は本来、話を聞いて欲しがるものなのですから、その環境・雰囲気を作れば、必ず話してくれます。また、呼び水として有用なのは、親の相談事を子供に持ちかけることです。誰しも、相談をされた時には「自分を信用しているから相談してくるんだ」「子供相手には相談は持ちかけないよね」と考えます。例えば、「今日、上司にこんなことで叱られたんだけど、私は間違ってないと思っているんだけど、あなたはどう思う?」というようなことでも、夫婦間でもめていることでも。ただし、子供がその問題に対して言ってくれたアドバイス・意見に対しては、「やっぱり、子供やね、それでは上手くいかんのよ」と否定せず、「ありがとう、参考になったわ」と受け取りましょう。それを2〜3回繰り返すと、「実は、俺も困ったことがあってさー」と相談話を始めます。                                                 

Q17
言われたことしかできない(しない)、融通が利かない、気が利かない子を変えるにはどうしたらよいでしょうか?
A17
あなたに質問です。 「言われたことしかできない(しない)・融通が利かない・気が利かない」のは、あなたに対してだけじゃないですか?  学校の担任から同じようなことを指摘されていますか?あなたがこの子に対して同じ態度をとっていませんか?  単に話を聞いてあげていないからではないでしょうか?

Q18
子どもがいわゆるイヤイヤ期に突入しかけているのですが、どのように対応したらよいか困ることがあります。オススメの対応の仕方がございましたらぜひお教えいただきたいです。
A18
諦めましょう。小児科医としてお母さんからの質問で最も困るのが、「夜泣き」と「イヤイヤ期」への対応です。色々調べてみても、先輩小児科医やおばあちゃん達に尋ねても、これと言った解決策は出てきません。ただし、どれぐらいの期間で解消されるかは推測できないのですが、必ずその時期を抜け出します。したがって、今は傍観して、時期が過ぎるのを待つのが一番でしょう。何をしても無駄だし、何をしなくても良いと考えると、少し落ち着いて対応できるのではないでしょうか。少しだけ積極的にできることは、 「良いことを増やすと、悪いことは減る」という原則です。良いことと悪いことの間に因果関係がなくてもです。「イヤイヤ期」にイヤイヤを減らそうと力むより、やる気スイッチや甘える壺の考え方を使って、子供にとって幸せな時間を増すように工夫しておけば、自然とイヤイヤは減るでしょう。また、イヤイヤ以外の時間帯での子供の笑顔が大きくなれば、お母さんは子供からのポジティブなエネルギーをもらって、イヤイヤの時間帯を乗り越えられるでしょう。

Q19
先生のポリシーについてお聞かせ頂けると嬉しいです
A19
ただ単に“ポリシー”と言われても返事がしにくいのですが、講演会に対するポリシーと人生に対するポリシーについてお話し
ます。
①講演会に関するポリシーは、「楽しく、具体的に」です。私たちの学生時代にしてきた“勉強”の多くは、楽しくなくて苦しい・難しい・丸暗記するものが大半でした。それは試験を目的にしていたからです。でも、本来の勉強は“あーそうか、分かった”という感激を生むもので楽しい・嬉しいものです。加えて、セミナーや講演会に参加して、「良い話を聞いたなあ」と思っても、その内容を自分の生活・人生にほとんど応用していません。浜松医科大学の植村教授が「教育することは、単に教えることではなく、望ましい方向に変容させ、かつそれを習慣化させることである」と書いていました。教育を受ける立場、すなわち学ぶ側からこの言葉を書き換えると、「学ぶということは、単に座って聞くことではなく、行動(人生)を望ましい方向に変化させ、かつそれが習慣化することである。行動化・習慣化がなかったら、学んだとは言えない」ということなるのです。でも、そのためには、教える側が実行しやすいように・実行してみようと思えるように、具体的に話すことが大切だと私は考えています。
②人生に対するポリシーは、「あわてず、はしょらず、丁寧に、そして素直に」です。現代は全てにスピード化され、アスクルにネット注文すれば確かに明日物品が届きます。しかし、哲学者の鷲田清一さんは「待たなくてよい社会になった、待つことができない社会になった」と言っています。私たちはお金をかけて時間を節約して、スマホばかり見ています。この時間の使い方は、人生に何をもたらしているのでしょうか、人を幸福にしているのでしょうか? 最も時間がかかる、つまり、最も待つことが大切なことが、子育てと教育です。子供に、家族に、部下に、愛情を注ぐ必要がありますが、愛情は時間で伝わります。すなわち、待つことで信じていることを伝えるのです。誰かが信じてくれていると分かると、人は頑張ります、モチベーションが上がります。そして、自分を育てるためにも、それは同じです。いくら情報が早くて多くても、消化・吸収して血となり肉となるのは人間ですから、石の上にも3年であることに現代でも変わりないでしょう。自分自身が成長するための時間を確保すること、待つことが、「あわてず、はしょらず、丁寧に、そして素直に」です。

(多賀先生)
皆さんから頂いた感想の中で、気になるコメント(下記)がありましたので、追加でお話しします。
 ・子供が小さい時に聞けたら良かったなあ・・
 ・子育てが終わってしまいましたが、多賀先生の子育てを聞き、今度は孫へ頑張ってみます。
 ・子育てはもうほとんど終わってしまいました。子育ての真っただ中に先生のお話をお聞きしたかったです。
 ・自分の子供たちが小さいうちに聴きたかった もう手遅れかな
 ・子供が小さい時にもっと話を聞いてあげれていたらな、と思わされました。

本当に「子育ては終わった」のでしょうか? 確かに、子供たちは成長し、家を出て、仕事をして、結婚して、孫ができてて、自分たちはおじいちゃん・おばあちゃんと呼ばれるようになったかもしれません。孫にとってはおじいちゃん・おばあちゃんだとしても、子供たちにとっては今でもお父さん・お母さんであることに変わりはありません。日本における平均寿命は何歳かご存知でしょうか? 男性が81歳、女性が87歳です。その数字から、ご自分の年齢を引き算してみてください。平均でも、その年数だけ、お父さんであり、お母さんであり続けているのです。「やる気スイッチを入れる」、すなわち「人を育てる」ための方法は普遍的であり、お父さん・お母さんは死ぬまで、お父さん・お母さんとして子供たちを育て続ける義務があるのです。
それは権利とも言えますし、人生の楽しみとも言えます。親子の関係だけが、時間を使うという愛情が一方向的に上から下へ流れ続け、双方向性にする必要がない・返す必要がない関係です。次の世帯も、その次の世代もそうして、上から下へ愛情を流し続け、子供たちを育て続けていくことが大切だと思います。特に、50歳になっても、60歳になっても、話を聞いてほしい、特に、お父さん・お母さんに話を聞いてほしいのです。